「ポン・デ・リング以来の衝撃」は本物か?2026年、列島を狂乱させるミスド「もっちゅりん」が巻き起こした大行列と完売劇の真相
もっちゅりん ミスドの前に立ちふさがるのは、朝8時の肌寒い空気と、すでに駅前ロータリーの角を曲がって伸びる数十人の列だ。ガラス越しに見える厨房では、湯気を上げるフライヤーの周囲をスタッフが小走りで往復している。バットに積まれた薄桃色と山吹色のリングは、照明を浴びて不思議なほど微かに揺れる。先頭から30番目あたりに並ぶスーツ姿の男性が時計を気にしながらスマホを握りしめていた。買えるかどうかは分からない。2026年春、ダスキンが突如として放ったこの奇妙な名の新作ドーナツは、ファストフードの枠組みを完全に破壊してしまった。開店からわずか30分で「本日分終了」の看板が出る光景が、北は札幌から南は福岡まで、全国の主要駅前で連日繰り返されている。
レジ袋から漂う甘く香ばしい油の匂いに包まれながら、筆者はトレイの上の実物をじっと見つめた。世間をここまで駆り立てるもっちゅりん ミスドの正体とは何なのか。単なる一過性のSNSバズと片付けるには、店頭に並ぶ人々の熱量はあまりにも生々しい。女子高校生から夜勤明けの看護師、孫に頼まれたという白髪の老紳士まで、普段なら交わることのない客層が同じひとつの塊を求めて立ち尽くす現場を歩くと、緻密に計算された商品開発の執念と、デジタル社会が渇望していた「ある感覚」の交差点が浮かび上がってくる。
噛んだ瞬間に消える?「未知の弾力」を生み出した新開発ハイブリッド生地の正体
指先でつまんだ瞬間、違和感を覚える。重い。だが、潰れない。指を離すと、まるで記憶形状スポンジのようにゆっくりと元の球体を復元する。口に運ぶ。歯が外皮の極薄いサクッとした層を破った直後、強烈な弾力が押し返してきたかと思えば、噛みしめる間もなく舌の上でとろりとほどけて消えた。もちもち、ではない。「もっちゅり」としか表現しようのない未体験のテクスチャーだ。
内部関係者への取材によると、この生地は従来のタピオカ澱粉頼みだった配合を根底から見直し、国内産高アミロース米粉と長時間発酵させた特殊なシュー種を分子レベルで均一分散させたものだという。油分を吸いすぎず、水分を内側に閉じ込める二重構造。開発に費やされた期間は実に4年。関係者は「ポン・デ・リングの呪縛から逃れるための戦いだった」と吐露する。軽さと重量感という相反する要素をひとつに押し込めた結果、脳が快感を覚えるギリギリの粘弾性が誕生した。
毎朝7時からの争奪戦――現場のクルーが明かす「仕込みが追いつかない」悲鳴
現場の疲弊は限界に近い。都内主要ターミナル駅に隣接する店舗で働く20代の時間帯責任者は、エプロンの袖で額の汗をぬぐいながら小声で実情を明かした。「フライヤーの油温管理が異次元にシビアなんです。生地が熱に敏感すぎて、一度に揚げられるのは通常のドーナツの半分以下。油から引き上げたあとの温度調節スペースも足りない。全速力で作っても、1時間に店頭へ出せるのは80個が限界です」。
店側がいくら製造ピッチを上げても、1人が上限の3個ずつ買っていけば、ほんの20分強でトレイは空になる。厨房内ではタイマーのアラームが絶え間なく鳴り響き、粉まみれのユニフォームを着たスタッフが粉の配合から成型までをノンストップでこなす。それでも朝9時には「次回の焼き上がりは12時です」の貼り紙を出さざるを得ない。完売を告げるたびに客から向けられる落胆のため息と舌打ちが、クルーたちの精神を削っていく。
「ポン・デ・リング」から23年、ミスドが自らの金字塔を破壊しに来た日
2003年、ミスタードーナツの歴史を塗り替えたポン・デ・リングの登場は、日本の菓子市場における「食感革命」だった。だが、偉大すぎる成功は同時に長すぎる足枷でもあった。以後に投入された季節限定品や新シリーズの多くは、どこかでポン・デ・リングの影を追い、あるいはそのバリエーションの域を出られずにいたからだ。
2026年の今、同社があえて「もっちゅりん」という直球かつ挑発的なネーミングでこの市場に挑んだ理由は明快だ。定番にあぐらをかいていては、コンビニ各社が仕掛けるハイクオリティなレジ横スイーツや、海外から上陸し続けるプレミアムドーナツチェーンに胃袋を奪われる。過去の遺産を守るのではなく、自らの手で看板商品を陳腐化させる覚悟で打って出た賭け。それが、この異様な質感を持つドーナツだった。
SNSアルゴリズムを味方につけた「ちぎる快感」と自発的バズの連鎖
広告費を湯水のように注ぎ込んだわけではない。火をつけたのは、スマートフォンを縦にした一般ユーザーたちの何気ない動画だった。両手でドーナツの両端を持ち、ゆっくりと左右に引き裂く。生地が細い繊維状に伸び、ちぎれる寸前にぷるんと震える。その刹那のわずか3秒の映像が、TikTokやInstagramのフィードを埋め尽くした。
ASMR動画特有の「指先が沈み込む鈍い音」と「引き裂かれる微小な破裂音」は、画面越しでも触感が伝わるような錯覚を呼ぶ。言葉による説明を一切必要としない直感的な快楽。タイムラインに流れてくる動画を見た者は、味を確かめたいというより「自分の手でちぎってみたい」という生理的な衝動に突き動かされて店へ走る。企業が仕掛ける巧妙なインフルエンサー施策を通り越して、純粋な身体感覚の共有が拡散を加速させた。
転売対策と個数制限の狭間で問われるチェーン店の矜持
狂乱が深まるにつれ、影も濃くなる。フリマアプリを開けば、定価200円前後のドーナツが専用保冷バッグ付きと称して3個3,000円といった暴利で出品され、実際に取引が成立している不気味な現実がある。駅前では購入整理券の配布を巡って客同士の小競り合いが起き、警察官が駆けつける騒ぎも一部で報じられた。
チェーン店としてのアイデンティティが揺らいでいる。誰でも数百円を握りしめてふらりと立ち寄り、甘い穴あき菓子を頬張って一息つける場所――それがミスタードーナツが築いてきた日常の風景だったはずだ。それが今や、朝から整理券を握りしめ、転売ヤーを警戒しながら殺気立った空気の中で手に入れる「特権物」になりつつある。ブランド価値の急上昇と引き換えに、日常の憩いの場としての温もりを失いかねない危うさを、この熱狂は孕んでいる。
一過性のブームか、国民的定番か?2026年後半へ向けた供給安定へのロードマップ
ダスキン側も手をこまねいているわけではない。夏に向けて主要工場の専用ミックス粉ラインを増強し、各店舗への供給量を現在の2.5倍に引き上げる計画が水面下で進められている。現場の負担を軽減するため、成型工程の一部を自動化する新型治具の導入もテストされているという。供給が需要に追いついたとき、本当の審判が下る。
手に入らないから欲しいのか、それとも本当に美味いから通うのか。秋風が吹く頃、店頭の行列が落ち着いたあとも、人々はショーケースの端に並ぶこのドーナツへ自然とトングを伸ばすだろうか。紙袋を抱えて雑踏を歩きながら、冷めかけた最後のひとつを口に放り込む。指に残る微かな砂糖の感触と、舌の上でふわっと消える儚い余韻。その確かな満足感を噛みしめる限り、この新しい食感が一過性の花火で終わるとは、到底思えそうにない。 (出典: もっちゅりん ミスド(Yahoo!ニュース))